CH19 papa bear chair

 

今回は、ハンス・J・ウェグナーを代表するチェアの1つ、PP19のご紹介です。

PP19と言うと、なかなかピンとこない方もいるかと思いますが、一般的には、

「papa bear chair(パパベアチェア)」という愛称で呼ばれる、イージーチェアです。

 

 

基本的にウェグナーのデザインしたチェアに名前という名前はなく、

番号で表記される事がほとんどです。

ある記者が、このチェアに関して、他のウェグナーデザインのチェアと同様に、

その遊び心あふれる自然体のデザインから、

「アーム部分がまるで後ろから抱きしめる熊の手のようだ」と表現したことで、

「papa bear chair」と呼ばれるようになりました。

 

アームの先端の木部を爪部と呼び、座った時に一番手をかける場所である為、

張りではなく木を使用し、見た目のデザイン的な面白さと、

使用上での耐久性の向上もになっているのも、さすがというところです。

 

 

このチェアはもともと、ウェグナーが、張りものを得意としていたAP stolen社のために、

1951年デザインしたものでした。

その後、AP stolen社が廃業し、その下請けとしてフレーム製造を行っていた、

Johannes Hansensが引継ました。

しかし1992年に廃業、その後PP Mobler社へと製造を引継ぎ現在に至っています。

1953年末にはすでにPP Møbler社はベアチェアのフレームのサブ・サプライヤーとして

製造をはじめ、その後、ウェグナーの多くのプロトタイプの改良に協力をし、

今や、ウェグナー製品の製造には欠かせない、

北欧を代表する家具工房です。

PP Møbler社はこのpapa bear chairをPP Møbler 創立50周年記念として、

2003年に復刻させました。

 

 

 

木部よりも、張りもので全体を覆われたこのイージーチェアですが、

熟練の職人が一脚一脚それぞれに少なくとも2週間をかけ仕上げていくチェアです。

もちろん目に見えない内部までしっかりとこだわっており、

フレーム構造、内部の詰め物も当時と変わらぬ方法や素材を使用しています。

特に背、座面のクッション部に関しては、馬毛、パーム(やし)、リネン(麻)、コットン(綿花)と、

当時のままの製法にすることで、60年を経た今も同じ座り心地を維持し続けています。

 

 

また、イージーチェアとしてしっかりと広い座面と、

内部ではアームから後ろ足までつながった強靭な木部構造により、

ただ腰掛けるだけでなく、体を斜めにしたりアームに足をかけたり、

様々な姿勢で座っても簡単に壊れたりしない、丈夫な作りになっています。

 

 

まだ、APstolen社の下請けだった頃、PP Møbler社を訪れたウェグナーが、

創業者であるアイナー・ペダーセンに、

「中身って見えないところだから、そんなに手をかけなくていい」と言ったところ、

「僕らは見えないところであっても、出来うる限りの技術で最高のものを提供する。

それが職人としてのプライドだ。」と、アイナー・ペダーセンが激怒し、

そこからウェグナーとの距離が急速に縮まったという話があるくらい、

当時から見えないところまで気を抜かずに製作するという、

職人としてのプライドを持った工房でした。

その心意気は、代替わりした今も変わらず、現代であれば、素材も当時以上に多様化し、

安価な木材や安価なウレタンを使用するという方法もある中、

ウェグナーの理念を忠実に継承し、手を抜くことなく、

変わらぬ座り心地を提供し続けてくれているPP Mobler社の心意気に、

敬意を表したいです。

 

 

ウェグナー自身、晩年、高齢者施設へ入居する際、

唯一選び持ち込んだこの「papa bear chair」。

価格だけ見れば安いものではないかもしれませんが、一生以上寄り添える椅子かと思うと、

使い捨てではなくなるこれからの世代へ、受け継いで使い続けて欲しい、

かけがえのない財産となる極上の1脚であることは間違いないです。